「石と古本 石英書房」の日々

お店の最新情報と、石や本、お散歩その他、店主の好きな物事について綴ります。

心の標

長靴が友となるような雨です。気温も低めです。


田辺聖子さんが亡くなられたとのこと。いつかは、と分かっていつつも大変残念です。

ずいぶん前にもブログで話題にしていますが、私にとっては大切な存在でした。最初に出逢った作品は『孤独な夜のココア』、中一のとき、中学校の図書室にてです。それ以来、実に長い年月、何度となく読み返しながら少しずつ作品を買い集めていました(主に文庫)。どの作品が一番!というのはあまりないくらいに、それぞれの作品世界を楽しんでいます。

今でも年に何回かは読み返しが続いています。内容はかなり詳細まで頭に染み込んでいるのに、それでも日常生活の隙間のような時間にちょっとずつ文字を辿ると、薬のようにじんわり心に効いてくるのです。田辺さんの描く人々の佇まいや心の機微、美味しそうな食べ物、美しいものへの慈しみ、みんな好きです。ときにある、ほろ苦さも。

ちょうど一昨日から昨日にかけても『恋にあっぷあっぷ』を読み返し、次はどの作品にしようかと考えていたところでした。これがもし虫の知らせというものなのだったら、その繋がり方をありがたいもののように思います。

私が作品の随所から感じていた、過度に深刻ぶらず、日々に楽しさを見いだして面白がって暮らす姿勢。そのことの案外な重みは、近年ようやく痛感できるようになったと思います。まだ続くであろう私の人生の標となりそうです。


私もそれなりに年月を経てきて、ずいぶん忘れてしまうことが増えてきました。でも、この気持ちは失いたくない記憶の一つですので、後々の自分のためにもやや詳細に綴ってみました。


何だか後から遅れて落ち込んできそうな気もしますが、とりあえずまた少しずつ読もうと思います。どの作品にしようか、引き続き考えます。


ご冥福をお祈り申し上げます。

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