「石と古本 石英書房」の日々

お店の最新情報と、石や本、お散歩その他、店主の好きな物事について綴ります。

新解さんの集い その3

「古本 石英書房」の来週の営業日は、14(月)、16(水※)、18(金)、19(土)です。
      ※16日(水)は、都合により15時頃までの営業とさせて頂きます。


寒いです。立春は過ぎましたが、さすが2月という感じがします。
我が家でも、すごい風邪ひきが出ています。皆様、体調にはくれぐれもお気をつけ下さいませ。



では、「新解さん」の続きです。長々失礼しておりますが、今回で最後です。


辞書という、いわばモノではありますが、「新解さん」は、ご自分の考え・思想を
文章に反映しているところが随所にみられます。中には、つい失笑して
しまうような極端な表現もあります。
公正という点ではもしかしたら正当ではないのかもしれませんが、私はそこに、まず何ともいえない魅力を感じてしまうのです。
その個性は、私達に人生まで考えを及ばせてしまったりもします。


例えば、こんな言葉です。

なつかしい【懐(か)しい】(二)のみの引用です。


   思い出の深い人に久しぶりにめぐり会ったり かつて遊んだ土地に再び
   行って昔と変わらぬ景色や物を見たりして、時間の経過を忘れたような
   気がして、うれしい。
     (第六版 1107ページ)


大変丁寧な表現だと感じました。
けれども、この最後の「うれしい」に問題提起がなされました。
「なつかしい」は、嬉しいばかりではなく、もっと複雑な感情も含んで
いるのではないか。
苦い懐かしさとでも呼べるものでしょうか。私も、そういえば、と思い当たる
節が。
ご指摘された方の体験に基づくお話が出て、辞書からはやや脱線気味ながら、
皆さんそれぞれに人生を振り返るかのような雰囲気に・・・。
それなりに経験を重ねた、「初老」世代ゆえかと思われる空気の濃さが
生じる一幕もありました。


世代といえば、紙の辞書と電子辞書の違いの話題もありました。
比較のためお持ち下さった方もいらして、使ったことのない私は大変
興味深かったです。
電子辞書もそうですが、昔に比べて「検索」という調べ方がかなり広まって
います。
それを踏まえたご指摘がありました。


けんさく【検索】 書いてある事柄について、どこに書いてあるかをなんらかの              方法で調べ出すこと。「情報――」
              (第四版 384ページ)


調べるのは、内容ではなくて書いてある場所だということになっています。
内容は、本来自分の頭を使って取捨選択するものだと言われているようにも
感じられました。
第六版では若干ニュアンスが変わっていますが、このことはネット検索に
頼りがちなことへの警鐘のようにも感じられました。
いかに辞書好きとはいえ、私もそうなりがちですから。


そこから更に、検索・削除等の作業が日常である世代の考え方は今までとは
違ってくるのではという話題に展開していきました。
人づきあいや子育て等、生活にも影響を及ぼしてくるのではないかという
ご指摘には説得力がありました。
そういう面で親子で根本が異なってくる可能性を、私も意識していくべきかも
しれないと思いました。
辞書からこういう考えにまで発展するとは思いませんでした・・・。


このような感じで話はあちこちの方向を巡り、時間の感覚が分からなくなるほどでした。




この会の楽しかったポイントについて、いくつか感じたことです。


▽選択肢が非常に多いため、それぞれの経験に基づいて語れる部分がどこかに
 あること、それ故どなたでも話題を提供しやすく、かつすんなり話題の
 中に入っていきやすい。


▽テキストとなる辞書そのものが多彩(現在、一から五版まで存在)なので、
 一つの語に対しても話が膨らむ。


▽笑いもしんみりもあるので、話の流れにめりはりがついて起伏に富む。


つまり、どなたでも気軽に楽しみやすいといえるのではと思います。
辞書をまだ引き慣れない若い世代でももちろん楽しめると思われますので、
ぜひうちの子供達などにもさせてみたいとは思います。
けれども、先にも述べましたように人生経験を重ねたからこそ深く
楽しめるのだろうということで、参加者一同の思いは一致しました。
これも「初老」ならではかと。

 


会の模様をとても全ては語れておりませんが、少しでもお伝えできましたら
嬉しく思います。
印象深い会をこうして実施できて光栄でした。ご参加下さった皆様、
誠にありがとうございました。




最後に、『新明解国語辞典』あとがきの中の一文をご紹介します。ときに
しばしば変化する中で、長く変わっていないところです。


(略)逆に、昨日まで誤りとされたものが次の日からは大手を振って罷り通る
 ようになる。くつがえり易いのは人心ばかりではない。
   (第六版 1647ページ)


新解さん」のお考えの伝わる一文だと思います。参加された方のご指摘に
よりきちんと読み、何だか背筋を正したくなりました。やはり、辞書を
生き物として大切に扱っていらっしゃる・・・。
だからこそ、改版ごとに細かく丁寧に手を加え、時代の変化を捉えようと
しているのでしょう。
次の改版も楽しみになりました。



そんな「新解さん」で、私が見付けて大好きになった語釈です。


ごかん【語感】 (一) 言葉の持つ中心的な意味のほかに、その言葉から
        くみ取られるきれい・きたないなどの感じや、相手に
        どのように受け取られるか という響きなどをも含めた
        デリケートな用法。(二) 微妙な「語感 (一) 」を感じ取る感覚。 「鋭い    
       ――の持主」
          (第四版 423ページ)


とても素敵な表現だと感じました。
この語釈は、第六版では大きく変更されてしまいました。残念に思いますが、
自分が日々の中で大切にしていきたいと感じることには変わりはありません。


辞書との濃密なひととき、大変に楽しい時間でした!

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