「石と古本 石英書房」の日々

お店の最新情報と、石や本、お散歩その他、店主の好きな物事について綴ります。

野菊とバイエル

昨日の続きです。


干刈あがたさんの本で何を読み返そうかと考えて、まず浮かんだのは
私の定番ともいえる『しずかにわたすこがねのゆびわ』(福武文庫)です。
結構あちこちでお話している気がして、若干申し訳ない感もあるくらい。


この本はもちろんとしても、もう一冊くらいは・・・というときに
浮かんだのは『野菊とバイエル』(集英社文庫)。
学校での様々な出来事が頻繁に報道される今だから浮かんだのでしょうか。



作者の小学生時代を彷彿とさせる、自伝的色合いの濃い作品です。
読んでいてのどかな風景がまざまざと浮かびますが、それだけではありません。
思春期に入りつつある女子の世界の深い闇。私の頃も結構ありましたが、
様相に多少の変化はあっても今もなお存在しているのを感じます。
そしてこれからもきっとなくならないのでしょう。
そんな空気もまたくっきりと描かれています。


当事者側としてだけ読むのと、子の親という立場になってから読むのとでは
結構印象が違ってきて、こうならないためにはどんな心がけで育てていったらいいのだろう? とか、
子供の内心の葛藤まで親は分かっていないなあ、自分もまた同じような親になっているんだなあ、
などと考えてしまったりします。
しばらく読んでいない間に当然自分の子供も成長し続けていて、
主人公世代にかかるのは三女だけになってしまいました。
登場人物の年齢を追い越していった長女・次女を思い浮かべると、
いろいろくぐり抜けて大人に向かっていくのだなあ・・・とふとしみじみしました。
年を経ての再読、しかもその繰り返しは、そういうことが面白いです。



昔からずっと、広い広い世代に読んでほしいと思っていました。
読んだから嫌なことが消えるという訳ではないですが、考えてみる時間そのものが
きっと大切なのだと思います。
そういうことはたくさんあって、“いつか読もう”とか“いつかしよう”と思って
果たせないことが私にもたくさんあります。出来ないことが情けないようなことも
かなり含まれています。


でも、きっかけがあってタイミングも合うときは
発信くらいはできたらいいなと思います。



私自身が干刈さんの年齢を追い越してしまう時期も次第に近づいてきています。
時の経つのは早いです。

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