「新解さん」読書会についてです。
お茶やお菓子を摘まみながら、辞書を手に語り合う会です。
前回記事の画像でもご紹介している三冊の本
『新解さんの謎』(赤瀬川原平、文春文庫)
『新解さんの読み方』(夏石鈴子、角川文庫)
『新解さんリターンズ』(夏石鈴子、角川文庫)
で書かれているような内容を実践しております。
ご興味をお持ちの方はぜひお読みいただけますと幸いです。
今回の「新解さん」読書会も、
夏石鈴子さん(注・『新解さんの読み方』『新解さんリターンズ』著者)を
お迎えして開催しました。今回は自ら司会進行もして下さいました。
今回のご参加は、夏石さんと店主を除くと男女4名。初参加の方もおいでです。
当日までにそれぞれが手持ちの「新明解国語辞典」で気になる言葉を
ピックアップしてきています。
それを順に発表する手法は前回と同じです。
新明解国語辞典は改訂を繰り返し、現在最新は第7版ですが調べてくる版は問いません。
むしろ、ばらばらの版で“調査”してくることに醍醐味が出てくるといえます。
それは、「新解さん」が改訂のたびに様々に変化しているからです。
この日最初の発表でもそれが表れました。
*ヤムチャ(飲茶) 中国茶を何杯もお代りをして飲みながら点心を食べる中国人の慣行。
最新の7版での記載です。食べ物にうるさい新解さん(後述)にしては、
そっけなさも感じられる書き方です。
そこで遡ってみると、4版では少し異なっていました。
濃い中国茶を何杯もお代りをして飲みながら点心・料理をつまむようにして
食べる中国人の慣行。
中国茶が濃くなくなったのは何故なのか?皆であれこれ話しました。
「新解さん」は第4版の辞書編纂の頃に初めて飲茶体験をしたのでは、
この頃飲んだお茶がたまたま濃かった、濃いと感じたがその後何度も飲むうちに
“あれはたまたま濃かった”と気付いた、飲み慣れて濃く感じなくなった・・・等、
想像というよりは妄想とも呼べそうな仮説が広がりました。
第4版の初版は1989年に発行されています。いわゆるバブル期で、この頃は確かに
あらゆる面で新しいモノ・風習がどんどん入ってきていたように思います。
辞書から時代の流れも伺うことができるのは面白いです。
このようなことにこだわってしまうのは、この辞典が「新解さん」という
ある特定の人物の好みや考え方、生き方を実に色濃く反映しているように
感じられるからです。
語句そのものの増減に留まらず、語釈や用例、運用にも及んでいるその変化からは
「新解さん」という人物像が浮かび上がってくるかのようです。
そこを楽しむのは、この会の大きな趣旨の一つといえると思います。
以下、食べ物繋がりで。
*やまばと(山鳩) ※一と三は省略します。
二.わが国で最も普通の野生のハト。からだは灰色で、羽に茶色と空 色の模様が有る。デデッポッポ―と鳴く。肉はうまい。キジバト。
上記は6版のものですが、7版では「肉はうまい。」の一文がなくなっています。
なぜ消えたのか?美味しくなくなったから。ではなぜ味が落ちたのか?
いろいろ気になってしまいます。
ちなみに、「うまい」「味はよい」等の表現が消えたものたちについては
夏石さんが調査して下さっていました。
これまでの多々の箇所から魚好きだと推測される新解さんらしく、
そのこだわりは魚介類ばかりに出ていました。
前回話題に出た「たらこ」にも消えた部分がありました。
*たらこ(鱈子) 一.スケトウダラの卵を塩漬けにした食べ物。普通、一腹がサイドカー のように並んでおり、焼いたり酢の物にしたりして食べる。
※二は省略します。
6版まで私たちを楽しませてくれた「サイドカー」の表現。「酢の物」という食べ方も
論議を呼びました。
ところが7版では
「普通、一腹が二列に並んでおり、生のまま、また、焼いたりして食べる。」
と変化していました。ちょっと、いいえ、結構残念な感じです。
サイドカーは分かりにくいと判断されてしまったのでしょうか。
けれども、私達はそれに代わる愛すべき表現をこの日決めることができました。
最新の7版で生きています。
*コッペパン ※( )内は省略。
サツマイモを長く二つに切った形のパン。
なぜパンの形をお芋で表現するのかとも思いますが、好感が持てます。
私はほんわりとした愛嬌めいたものを感じました。
なお、この説明に至るまでには
横にしたサツマイモの下部を平たく切った形のパン。(4版)
↑
サツマイモ形で底の平たいパン。(3版)
と試行錯誤がなされています。サツマイモからは少しも離れることなく。
それも何だかおかしみがあると思いました。
このように、一つ発表されるとそこから派生して別の言葉に注目・・・といった形で
会は進められていきました。私もそうですが、皆さん気付いたことがあると
どんどん発言されます。そして、辞書をどんどん引いていきます。
それが何とも楽しい時間なのです。
コンプリートしておいた1〜7版の辞書一同が活躍しているのも嬉しい限りです。
長くなり失礼しております。
一つ一つはとても挙げ切れませんので、できるだけ要旨を絞り込んでお伝えできるよう
心がけたいと思います。次回に続きます。
<当日ご参加だった皆様へ>
皆さんの発表・発言を基に、順序を入れ替えたり略したりして綴っております。
適切でないところ等、気になる点がございましたらどうかご指摘下さいますよう
お願い申し上げます。